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名古屋高等裁判所 昭和40年(ツ)42号 判決 1966年4月20日

上告人 加藤宇之助

被上告人兼被上告人中橋春訴訟承継人 中橋光男

被上告人(被上告人中橋春訴訟承継人) 中橋常雄 外一名

主文

原判決を破棄する。

本件を金沢地方裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人らの上告の理由は別紙のとおりである。

被上告人ら代理人は上告棄却の判決を求めた。

上告理由第一点について

まず、民事調停における調書に、民事訴訟法一四七条(調書の証明力)の準用があるかどうかを検討する。民事調停規則一一条は「裁判所書記官は調停手続において調書を作らなければならない、但し調停主任においてその必要がないと認めて許可したときはその限りでない」と規定しているのみである。そこで、民事調停法二二条の準用する非訟事件手続法、同法一〇条の準用する民事訴訟法をみると、民事調停法に準用される民事訴訟法の規定は、期日、期間、疎明の方法、人証および鑑定に関する部分に限り、口頭弁論調書の記載事項に関する一四三条および一四四条はもとより、調書の証明力に関する一四七条の規定をも除外している。(特にこの規定を準用する場合は明文がある。民事訴訟法六七七条二項、競売法三二条二項参照)このことは、民事調停における調書の証明力に関して民事訴訟法一四七条の準用のないことを明かにしたものであつて疑義をいれる余地はない。そうとすれば、民事調停の調停期日における当事者の出頭の有無が争われる本件のような場合には、前記民事訴訟法第一四七条の準用がないのであるから、証拠によりその有無を確定すべきであつて、調停調書の記載のみによつて判定すべきではない。

しかるに、原判決の理由(第一審判決の理由引用)によれば、民事調停における調停調書の記載にも民事訴訟法第一四七条の準用ありとし、本件調停調書には期日に同調停の当事者である上告人が出頭した旨の記載があり、右調書は滅失および偽造変造等の例外の場合に該当しないから、右調書記載のとおり上告人が期日に出頭したと認めるほかはないとして、何ら事実の認定をなさずして上告人の本訴請求における本件調停成立の際に上告人が立会つていないから本件調停は無効であるとの主張を排斥したのは、前記民事訴訟法第一四七条の解釈を誤つた違法があるか、もしくは審理不尽、理由不備の違法があるものであつて、論旨は結局理由があるものといわなければならない。よつて、その余の論旨に対する判断を省略し、原判決を破棄し、これを原審に差し戻すべく、民事訴訟法第四〇七条第一項に従い主文のとおり判決する。

(裁判官 坂本収二 渡辺門偉男 小沢博)

別紙 上告理由

第一点

一、原判決理由に於て「控訴人は本件調停成立の際に控訴人が立ち会つていなかつたから本件調停は無効であると主張する。しかしながら本件調停調書の証明力に関する当裁判所の判断は原判決理由と同一であるからここにこれを引用する」と判示せられ第一審判決理由に於て「なお民事訴訟法第一四七条は口頭弁論の方式に関する規定の遵守は調書によつてのみ証することができることを明かにし調書の滅失及び偽造変造の場合を除いて反証を許さないのであつて、その趣旨は調停成立調書についても準用あるものと解すべきである。

そして本件調停調書には期日に同調停事件の被告加藤宇之助が出頭した旨の記載があり、右調書は前記例外の場合に該当しないのであるから右調書記載のとおり同人が期日に出頭したと認めるほかはないのである」と判示せられてあるから原審も此調停調書の証明力に関し同一の判断を為されたものと解すべきところ上告人は第一審に於ける右判示は民事訴訟法第一四七条の解釈を誤られたものと思料します、右法条に弁論の方式に関する規定の遵守は調書に依りてのみ証することを得るとあるのは調書の滅失の場合は議論はないが第一審に於ては、偽造変造の場合のみ反証を許すと判示せられたけれど事実を誤解しいわゆる思いたがいをして調書を作成した時も偽造変造の場合と同様反証を許す趣旨であることを忘れたものである。上告人は第一審以来昭和三十九年八月六日の調停期日には最初出頭していたるも語気鋭どく調停案に反対した為め調停主任裁判官は上告人に退席を命じ長男宇吉に委任状を渡して出席せしめよと命じた為め上告人は調停成立の際には立会はなかつたのである。然るに調停成立調書に上告人が出頭して居つたと記載せられたのは偽造変造されたのではなかるべきも上告人が最初出頭して居つたから退席したことを思いたがいして終始出頭して居つたと記載せられたものと思はれる故に上告人は此調書は事実に吻合せざる無効のものとして訴訟を提起したところ第一審に於て請求を棄却せられたるにより控訴したるに原審に於ては第一審同様調停調書は偽造変造の場合の外は反証を許さないとして思いたがいの場合でも反証を許さないとして控訴を棄却せられた。上告人の本訴請求原因は上告人が調停成立の時出頭していなかつたのに調書に出頭して居つたと記載せられたのは調書が偽造変造せられたか又は思いたがいにより作成せられたものと主張するものであるから思いたがいにより間違つて記載せられたか否かを審理判断せらるべきに不拘、調停調書は偽造変造の場合の外反証を許さぬとして請求を棄却せられたのは民事訴訟法第一四七条の解釈を誤り為めに審理不尽の違法あるものと言はねばならぬと思はれる。

第二点

石川県鳳至郡穴水町字川島ヨ一八の四宅地二〇坪及び同一八番ノ一宅地一〇〇坪は上告人の所有地であつたのが本件調停成立後右土地は被上告人等の所有となる。本件調停は上告人が立会しなかつたに不拘、調停成立したものと看做され、上告人はその意思に反し、所有権を失うこととなる。右土地に関し上告人は所有権の確認の請求の訴を提起しても調停が成立したものとせば一事不審理の原則に依り訴が却下されることは明瞭である。依而上告人は本件土地に関し所有権確認請求の訴を提起する前提として本件調停の無効確認を請求するものである。

凡て国民の財産権は憲法第二九条の保障する処なるに本件調停は右財産権の侵害となるので、原審判決は之に違背し、又調停成立を確認することは間接に上告人の所有権確認の訴の提起を阻む結果ともなり、憲法第三二条の精神にも反することと思はれるので上告致します

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